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ミレーナ物語(7)ミレーナ物語に欠かせない二人の恩人

2022.04.05

神戸大学名誉教授(産科婦人科学)丸尾 猛

ミレーナは2007年に認可された。その15年前の1992年から神戸大学病院でミレーナを使用できたのは米国ロックフェラー大学Population Councilから臨床試験用に提供されたおかげである。ここで、ミレーナ物語に欠かせない二人の恩人を振り返りたい。

1.Sheldon Segal先生

Segal先生はロックフェラー大学Population Council研究所の初代Directorで、1977年から3年間私をロックフェラー財団研究員として受け入れて下さり、米国留学の機会を与えていただいた

ロックフェラー大学は野口英世博士が活躍した研究所で、3年間の留学がミレーナ物語の起点となっている。

Segal先生のリーダーシップのもとに黄体ホルモン徐放型の皮下埋め込み式インプラント・Norplant がPopulation Councilで開発された。Norplantは、マッチ棒サイズのインプラントを上腕皮下に埋め込み、黄体ホルモンを徐放性に放出させて5年間の長期避妊を可能にする製剤である。サイラスティック膜から黄体ホルモンを5年間にわたり徐放性に放出させる技術を子宮内システム(IUS)に導入したのがミレーナである。

画期的な薬剤付加型IUS・ミレーナの開発は、長期避妊インプラント・Norplantの技術を応用することによって初めて可能となったもので、Segal先生はミレーナ物語に欠かせない恩人である。

1996年の神戸大学産科婦人科学教室主催の記念祝賀会に主賓として出席していただいた。

2.Wayne Bardin先生

Bardin先生はPopulation Council研究所の2代目Directorで、1988年の国際内分泌会議(京都)の招請講演者として来日された。丁度その年、私は内分泌学会からMorning Star Award(研究奨励賞)を授与され、国際内分泌会議の場で受賞講演を行う機会に恵まれた。

講演を聴いて下さったBardin先生から、後日、Population Council国際研究委員に指名したいとの申し入れが届いた。日本人として初めての指名で、1991年からニューヨークでの国際研究委員会に年2回(4月と10月)招かれることになった。それ以来20年間にわたり国際研究委員会に招かれ、共同研究を続ける過程で出会った友人は私の人生の宝物となっている。

1991年当時は黄体ホルモン徐放型インプラント・Norplantが実用化され、大きな脚光をあびている時期であった。Population Councilと国際共同研究を開始するにあたり、黄体ホルモン徐放型子宮内システム(IUS)のユニークさに魅了され、ミレーナの臨床試験を行うことにした。当時、子宮筋腫女性への子宮内避妊器具(IUD)装着は禁忌とされていたが、ミレーナ装着患者さんの「今は天国です」との喜びの声は無視できないと、Bardin座長が子宮筋腫女性の過多月経治療にミレーナを応用する臨床試験にゴーサインを出して下さった。

Bardin座長の決断で1992年からミレーナによる過多月経治療の試みが神戸大学病院で動きはじめた。それから15年後の2007年に認可され、2014年には過多月経・月経困難症に保険適応となった。Bardin先生の決断がなければ、ミレーナは安全・確実な長期避妊法との認識で止まっていたと考えられ、Bardin先生はミレーナ物語に欠かせない恩人である。

1996年の記念祝賀会にはSegal先生と一緒に出席していただいた。(写真は記念祝賀会に来日された際、有馬の庭園で撮ったものである)

二人の恩人との出会いを振り返り、私の好きな言葉「生かされて、生きる。」を改めて実感し、出会いに感謝するこの頃である。